2007年05月23日

辻邦生の文体から考えたこと

背教者ユリアヌスから受けた影響の中でかなり重要だったのは
少し昨日も書きましたけれど、その文章文体のあり方です。

辻邦生を評する時、誰もがその文章や表現の美しさ豊かさを
挙げます。本当に氏の書く文章は美しく品格があります。
決して高みから見下ろすようなものではなく、根本に人間への
限りない優しさとか愛があると思います。

ユリアヌスの文章には加えて、まるでそこに砂埃を巻き上げて
進むローマ軍の軍靴の音や馬の嘶きが聞こえ、どこまでも続く
果てしない青空や、コロッセウムの白く屹立する様が見えて
くるような、立体的で圧倒的なリアリズムがあります。
描写に曖昧さがなく、洗練され乾いているのです。湿度がない。
ヨーロッパの空気や建物のような、文体。

そしてもう一つ、そこに感じるのは光と影の色濃さです。
時間や感情の流れ、状況や状態の表現の中に、光と影がある。
そこに私は強烈に惹かれます。絵画で言うと、カラバッジョや
エル・グレコの宗教画のような濃い影の使い方。そして
高みを目指し天を指して、昇って行く光のような表現。

それらが目指すものは、リアリティ。仏語でレアレテ。
私はこのユリアヌスを読みながら、この様に私の表現も
あれたらいい、と憧れ夢見ました。ピアノという楽器
そして音という手段で、こんな風に光と影を織り成しながら
リアリティが持てたらどんなに素晴らしいだろう、と。

立体感、躍動感、そして光と影。

辻邦生の小説が全てを決定していったわけでは勿論ありません。
当時聴いたり伴奏したりして大好きだったヴェルディのオペラ。
上野の森に展開された数多くのヨーロッパ美術の展覧会。
レニングラードフィルやチェコフィルの名演を聴けたこと
などなど思い起こせば、沢山の出会いがありました。
けれでも彼の書く文章は、文章であるがゆえのリアリズム
として、まさにそうでありたい、というその後の私の
音楽造形に、深く強烈な影響を与えたのだと言えます。
posted by yukiko at 22:14| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記
この記事へのコメント
文体確立は作家の命と宮城谷昌光さんが語る如く私はモンマルトル日記を熱愛しています。松浦寿輝さんが奇跡の40代と断言された如く若きトーマスマン文体の解読に既に辻文学の完成型を見ます。プラトン的イデアとティッチアーノ的輝きから、生の凱歌が当時発売のポリーニのシューマンの幻想曲の美的世界観と共鳴し、私はモンマルトル日記の高貴な命の輝きを強烈に生きてみたいと決意した青春時代を懐かしく思い出しました。
Posted by ミヤダセイジュン at 2021年04月09日 22:28
文体確立は作家の命と宮城谷昌光さんが語る如く私はモンマルトル日記を熱愛しています。松浦寿輝さんが奇跡の40代と断言された如く若きトーマスマン文体の解読に既に辻文学の完成型を見ます。私はパルテノン神殿からの啓示とモンマルトル日記の文体確立の高貴な命の輝きとを同時に強烈に生きてみたいと決意した青春時代を懐かしく思い出しました。
Posted by ミヤダセイジュン at 2021年04月09日 23:53
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/4090353
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック