2007年05月22日

辻邦生・背教者ユリアヌス

さて今日は何故だかレッスンの生徒が2人も続けてお休み。
で、時間が空いたのでブログを書いてしまうことに。

背教者ユリアヌス…この長大なる小説は辻邦生を代表する作品であり
辻邦生の真価を世に認めさせた渾身の一冊でもあります。
この本と出合って人生が変わったという言わば運命の一冊だとする
哲学者や多くの作家達、大学教授そして音楽家がいます。読むことを
勧めた友人達は口をそろえて、「読んで良かった。生きる意味、
喜びを見出せるような素晴らしい本だった。」と言います。
それ程に生きることの根幹を揺さぶり、生命と信仰と愛を謳いあげる
力強く深く豊かな物語です。

「かの人を我に語れ、ムーサ(=ミューズ)よ・・」というホメロスの
句で扉を飾られたこの作品は、古代ギリシャから受け継がれる
西洋叙事詩文学を日本語によって描いた本格的な叙事詩文学として
画期的なものです。

幼い時は幽閉されギリシア哲学を学び、その後運命に翻弄されながら
ローマ皇帝となり、キリスト教を国教とせず、古代からの信仰を
復活させ、ペルシャ攻撃の際に32歳の若さで戦死するユリアヌス
という人物造形を通して表現される、苦悩と試練、それに立ち向かい
自己に目覚めていく豊かな心の軌跡が見事に描かれます。
何度も訪れる身の危険を切り抜けていく、息を付かせない物語展開や
人間の最も愚かで残酷な数多くの苦難を体験しながらも、絶望する
ことなく、人間の正義と秩序の実現を信じて努力するユリアヌスの
ひたむきさや純粋さに心を揺り動されます。
常に教会勢力から命を狙われている立場にあったユリアヌスにとって
生きることは、その教えを絶対と信じて疑わず、それ以外の信仰や概念を
徹底的に排除し、ひたすら信仰に依存しようとする当時のキリスト教と
戦うことでもあったのでした。(それ故に後に彼は背教者と呼ばれます)
爛熟したローマ文化が衰退し始め、信仰という名のもとに理性が破綻
する時代の中で、ユリアヌスは人の正義や秩序について語り、信じ、
それを実践していこうとします。

「音楽的で絵画的で、光り輝くような、それでいて抑制の効いた文体は
それだけでも至宝のようで、まさに読み終わるのが惜しくなる。
辻邦生を読まずして「本読み」というなかれ。」

旧制高校時代からの親友である北杜生も傾倒したこの物語は
私に日本語の底力と可能性を教えてくれた本でもありました。
日本語特有の湿り気、というのか情緒的な湿っぽさは微塵もなく
辻氏の文体はカラッと乾いていて、明晰です。そして
特にこの作品においては、立体的で躍動感に溢れるその表現は
あのアクロポリスの丘からギリシアの街を見通すような壮大さ
があるのです。

この物語の魅力をここで表現することはとても出来ません。
とにかく魅力溢れる読んで損のない本です。
読み出したら、おもしろくてノン・ストップ!止まりません。

超オススメ!!!

また明日。

posted by yukiko at 18:30| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記
この記事へのコメント
私も辻邦生に大きく心を・・・
同世代のものです。
ブログ少し読ませて頂きました。
同感です。
いい記事みつけましたので。
東京まででかけたいなと・・・

http://www.toshima-mirai.jp/center/a_kumin/pr.html#090624
Posted by 望月 at 2009年07月05日 10:17
オーボエ奏者宮本文昭さんは高校生の時、毎日の儀式をブルックナー交響曲8番を聞く事は私と同じでした。その精神世界を背教者ユリアヌスで追体験しました。パリの手記や小説への序章の引用文献を調べ、仏教哲学の現代的課題へ照射して首席の修士論文を書きました。43年後、早稲田大学堀江敏幸先生に話したら笑っていました。小林秀雄と辻邦生は私の人生の師です。藤原定家の小説を読みたかった!
Posted by ミヤダセイジュン at 2021年04月09日 14:44
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/4079315
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック